大阪高等裁判所 昭和35年(ラ)114号 決定 1960年12月01日
抗告人 落合徳三郎
相手方 大谷芳子
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告人は、原審判の取消を求め、その理由として主張するところの要旨は、「原裁判所は、抗告人を何等審尋することなく、また事実関係について十分な調査をすることもなく、相手方の主張事実のみを全面的に容認した。しかし、原審判の認定したところは、離婚当時の事情、抗告人および相手方の生活環境、両者の資産、負債その他の経済事情、事件本人落合茂に対する監護、扶養の能力等、全般にわたり、事実誤認が存するのであつて、かかる誤れる認定を基礎としてされた原審判は、違法たるを免れないから、取り消されるべきである。」というに帰する。
当裁判所は、抗告人本人および相手方本人を審尋したが、右審尋の結果および記録中に存する資料を綜合すると、
「1 抗告人と相手方とは、昭和三三年九月一八日付で、両者間の子たる事件本人落合茂の親権者を抗告人と定めたうえ、協議離婚の届出をしたが、両者間には、同年五月頃から別れ話があり、相手方本人は、当時七歳に満たなかつた右茂を伴れて、大阪市内の実家に帰つていたので、離婚届出後も引き続き、茂は、相手方本人の許で養育されてきたこと。
2 現在、茂は、相手方本人とともにその実母および実兄の住居に寄食して、附近の小学校に通学しているが、右実兄夫婦に子がない関係もあり、幸福な生活を営んでいること。
3 相手方本人は、大阪市内の商事会社にタイピストとして就職し、相当の収入を得ていること。
4 抗告人と相手方との離婚は、抗告人が情婦池本美登里とねんごろになつたことが重要な原因をなしているが、抗告人は相手方と離婚後、昭和三五年九月右美登里と婚姻し、同人との間の子真美(昭和三五年三月一五日生)をも入籍して、現在は、相手方と婚姻前内縁関係にあつた且治代との間の婚外子裕子(昭和二二年八月一日生)とともに、家族四人で生活していること。」
を認めることができる。
以上認定の事実によるときは、事件本人落合茂の親権者を抗告人から相手方に変更するのが相当である。原審判に認定する事実のうち相手方の資産、負債等の点については、原審判認定事実を確認するに足りる十分な証拠は存しないから、原審判がこれを親権変更の理由として掲げたことは、妥当を欠く憾みがないでもないが、前記認定の事実関係のもとにおいては、たとえ抗告人に相当な資産があつたとしても、なお、親権者の変更をすることが相当であると認められるから、結局、原審判は正当に帰するものというべく、本件抗告は、理由がない。
そこで、これを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。
(裁判長判事 沢栄三 判事 木下忠良 判事 寺田治郎)